大判例

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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和59年(う)94号 判決

本件の公訴事実は,「被告人は,法定の除外事由がないのに,昭和59年4月中旬ころから同月23日ころまでの間,鹿児島県内において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン若干量を自己の身体に施用し,もって覚せい剤を使用したものである。」というものであり,原判決が認定した罪となるべき事実も右公訴事実とほぼ同一(ただし,原判決は,「フエニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤若干量」と認定。)であって,これらは,いずれも犯罪の日時,場所の表示につきある程度の幅があり,覚せい剤の使用方法及び使用量についても抽象的でやや明確を欠く点のあることは所論指摘のとおりである。

刑事訴訟法256条3項によれば,「公訴事実は,訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには,できる限り日時,場所及び方法をもって罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」と規定されているが,その趣旨は,可能な限り,罪となるべき事実を特定して,訴因を明示することにより,裁判所に対し審判の対象を限定するとともに,被告人に対し防禦の範囲を示すことを目的とするものと解される。

訴因の特定については,犯罪の種類,性質など事案の内容のいかんにより,あるいは証拠収集・立証の困難等のため,ときとして,犯罪の日時,場所及び方法を詳らかにすることができない場合もないわけではない。このような場合には,検察官が起訴当時までに収集した証拠に基づいて,可能な限り,これらの事項を特定したものであって,それが前叙の法の目的を害しないものである限り,その表示にある程度の幅があり,あるいは抽象的でやや明確を欠くような点があったとしても,訴因の特定に欠けるものではないと解すべきである。

また,刑事訴訟法335条1項所定の「罪となるべき事実」の記載は,それが,刑罰法令適用の対象及び量刑評価の重要な根拠となるべき事実を明らかにする目的を有するとともに,公訴時効の成否,管轄の存否,刑罰法令適用の当否,右事実と訴因との同一性の有無並びに二重起訴の禁止,既判力の及ぶ範囲を明らかにするなどの機能を有するものであるから,犯罪の日時,場所及び方法等を具体的に特定してなすべきである。しかし,事実の内容いかんあるいは立証の困難等のため,その表示にある程度の幅があり,若しくは抽象的でやや明確を欠くような点があったとしても,前叙の法の目的及び機能を害しないものである限り,判決理由に不備があるとはいえない。

これを本件につき考察するに,記録によれば,検察官としては,本件公訴提起の時点において,被告人より昭和59年4月23日任意提出を受けた尿から覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンが検出されたので,被告人の覚せい剤使用の事実が明らかになり,かつ,被告人が,同月中旬ころから右尿提出の同月23日までの間,鹿児島県内から離れたことがなかったことは判明していたものの,被告人が取調べ当初から覚せい剤自己使用の点を全面的に否認し続け,また,被告人の左腕に見受けられた皮疹からも注射痕であるとの確証が得られず,一方,被告人方の家宅捜索の結果によっても,右覚せい剤自己使用をより具体的に裏付ける証拠資料は全く発見されなかったため,犯罪の日時,場所及び方法等を前記公訴事実の記載の程度にしか特定しえなかったものとうかがわれ,以上の諸事情にかんがみれば,検察官としては,起訴当時までに収集した証拠に基づいて,右の諸点につき可能な限りこれを特定したものと認めざるをえず,そして,このような覚せい剤事犯においては,採尿に直近した最後の1回の使用を起訴し処罰するのが,現在の刑事裁判実務の常態となっていることを合わせ考慮すれば,右公訴事実によって,検察官が処罰を求めようとする対象は自ら限定され,かつ,被告人の防禦の範囲も示されているということができるので,本件公訴事実の記載は訴因の特定に欠けるところはないというべきである。

また,原判決の前記のような「罪となるべき事実」の表示によっても,刑罰法令適用の対象及び量刑評価の重要な根拠となるべき事実,公訴時効の成否,刑罰法令適用の当否,管轄の存否,訴因との同一性等につき疑問を生じるものでもなく,二重起訴の禁止及び既判力の範囲等についても識別が可能であると考えられるので,刑事訴訟法335条1項所定の「罪となるべき事実」の判示としても何ら欠けるところはないというべきである。

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